みなさんは「新潟に杉と男は育たない」という言葉を聞いたことがありますか? おえらいさんが集まる会合に呼ばれますと、必ず耳にする、ある意味、禁句(タブー)とされるフレーズです。北陸の海風が強すぎて杉が育たないという事実がどうして自嘲気味な笑い話として転化して使われるようになったのか、実証のほどは定かではありません。一説によれば、冬には冷たい風が吹くため杉が成長しないだけでなく、雪のように白い肌を持つ越後女の魅力に骨抜きになってしまい、男がふぬけになるということを表わした言葉なのだそうです。
若い世代にとって生まれ育った地元に対する愛着が年々薄らいでいる
なぜ、こんな噂とも迷信とも言われる言葉を引き合いに出したかといいますと……。
つい最近、同じパターンの転職相談が続いたからです。新潟とは縁もゆかりもない20代30代の男性がIターンを希望して職探しの相談にお見えになったんです。「またか」というくらい連続し、驚いたのです。聞けば、結婚を前提にお付き合いしている彼女(恋人)が新潟出身でゆくゆくは新潟の実家に帰省したい、という彼女の希望を叶えるため、とのこと。
若い世代にとって生まれ育った地元に対する愛着が年々薄らいでいるように感じることが多くなったこの頃ですが、一方で新潟女性の帰郷願望の根強さはかなり前から実感していました。いわゆる「マスオさん」状態の新生活を受け容れてくれる男性を新潟に引っ張ってくる逞しさ、とでもいいましょうか。感心してしまいます。
余談ですが、日本全国の起業率のラインキングで新潟は全国で最下位というニュースは以前もブログで紹介しました。実際、新潟で起業されている方の多くが新潟以外の出身の方で、しかも成功する業種のトップが飲食業をはじめとするサービス業です。こうした産業を小さく生んで大きく育てるのはやはり、家族のサポートが不可欠。表だって公表されることはありませんが、ここにも新潟女性の内助の功が透けてみえます。「女房にするなら越後女」とも言われており、それは働き者で夫に尽くすからという意味もこめられているそうです。離婚率がいちばん低い県であることも新潟女性の底力なのかもしれません。
未来を担うはずの若手の双肩にのしかかる無言の重圧
つい最近、面白い話を聞きました。北陸の女性の頬紅の色が全国の女性のそれと比べて「濃い」傾向にあるのだそうです。北陸特有の曇天の中で、鏡を見ながら化粧をする時の光の加減が関係しているのでしょうが、薄暗い光の元で化粧をしようとも、ささやかであっても「明るくありたい」「明るくみせたい」と自分自身を鼓舞し、装おうとする女性達の健気な心意気を思い、心動かされるものがありました。
一方で、男はどうでしょうか。こんな話を聞きました。「毎年、冬の雪かきをさせられている自分達は損をさせられている」。そう言ったのは20代の男性です。少子高齢化の地方都市では各世帯の介護だけでなく、地域密着型の助け合いがますます不可欠になっていくはずですが、彼らが非常に後ろ向きな発言を繰り返すことがやはり気になりました。
これからもずっと「損をしている」と思い続けるなら、彼らは新たな場所(職)を求めて新潟を離れてしまうでしょう。
昔はよかった、と感傷的になるつもりはないのですが、越冬するためにご近所同士で助け合って雪かきをする。この毎冬のつらい作業はかつて「互助の精神」によって支えられていました。けれど、それは手助けを必要とする年寄りの人口よりも明らかに働き盛りの生産人口のほうが多かったから成り立っていた関係ことだったと我々は気づくべきなのかもしれません。
少子化のいま、未来を担うはずの若手の双肩にのしかかる無言の重圧は私たちが思う以上に重いようです。それは自己肯定感の低さからも窺い知ることがあります。
大規模店舗立地法などによる法的変化は地方都市においても郊外から都心への集中を後押ししました。シニアの増加で郊外での雪かきや雪下ろしなどの管理が困難になり、街中のマンションへ移住するお年寄りも増えてきました。郊外への出店を国がブレーキをかけたのですから郊外の過疎化は進むばかりですが、他方では地元地域を守りたいと各自治体の若人が知恵を出し合って存続と繁栄を模索している動きもあり、「地元愛」への温度差は実に対照的です。先述の「雪かき」を厭う若い世代がにわかに「地元愛」に目覚めるとは思えませんが、きっかけさえあれば、もちろん変わることもあるはずです。
この地域の未来をもっと深刻に受け止める時期に来ている
仮説ですが、自分の行いが人のためになるという「貢献感」を体験することができれば、いやいや雪かきをするのではなく、自分なりのモチベーションを持てるようになるのではないか、と私は考えます。雪かきとは喩えであり、もちろん仕事にも通じます。
私は転職事業と並行して長く介護の事業に携わっているため、この「貢献感」というものが人間にとってどれだけたいせつであるか、そして働くモチベーションをいかに強く作用するか、ということを経験則として知っています。
喩え、強い風に吹かれようとも、雪が降り積もろうとも、自分は人の役に立っているという自己肯定感の気持ちが持ててはじめて、「互助の気持ち」や「他者への思いやり」を育むことができるのです。
新潟女に頼ってばかりで「杉と男は育たない」と一笑してやり過ごすのではなく、私も含めて男達はこの地域の未来をもっと深刻に受け止める時期にきているのであり、互助の精神と地域貢献愛の育成を人任せにせず、後の世代に根づかせ、伝えていくことが実は我々の世代の使命なのかもしれないと思いました。もちろん、自戒の意味もこめて、ですが。
「新潟に杉と男は育たない」という言い伝えが、近い将来、「そんな時期もあったね」という笑い話になるように。我々は人材紹介という事業を通じて「男育て」をしていかなければならないようです。
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