今回は一職種における採用ニーズの変化について書いてみたいと思います。その職種とは「営業」です。
即戦力として求められる課題解決型の営業スタイル
ここ数年、転職市場で求人ニーズが最も変化しているのは「営業職」ではないでしょうか。
その変化を一言で言えば、営業職はより高度な専門性が求められるようになっている、ということです。
未経験でも一定期間OJT研修で営業スキルを習得し、現場で活躍できる。こうした内容の営業求人がまず減りました。現在は女性の活躍推進の後押しで、子育て復帰後、復職する女性が増えていることもその背景にあるかもしれません。さらに、かつての第二新卒採用でみられた未経験から挑戦できる営業職求人が大量発生するというパターンはもはや過去のものになりつつあります。
いま即戦力としての営業職に求められるのは「コンサルティング営業」「提案営業」といった、より課題解決型の営業スタイルです。たとえばルートセールスよりも新規開拓、有形商材よりも無形商材、低額商品よりも高額商品の営業経験者が重宝される傾向にあります。
現在、求人市場で二―ズが高いのは下記のような経験者です。
・法人を対象としたビジネス(BtoB/BtoC)で高額無形商材を扱った経験のある営業経験者
・海外拠点や海外支店の立上げ経験者
・開発案件を直接オーナーに提案できる不動産営業経験者
・証券会社で個人顧客対象に投資信託や運用提案を行っていた経験者
・MR
営業職の場合、自らの強みを把握するためのキャリアの棚卸をするには何を/誰に/どういう方法で/どれだけ売ったかを因数分解するのが近道です。
汎用性の高い営業スキルの真価が問われている
具体的には、商品かサービか/主要顧客は誰か/新規営業かルート営業か/取引先の規模/国内外/セールス実績や表彰歴などをクリアにし、その上で自分の強み(企画力、提案力、交渉力など)を特徴づけ、どのように課題解決をし、業績に結び付けたという起承転結をつくることが、職務経歴書の作成や面接のプレゼンテーションにおいて効果的なのはいうまでもありません。これに加え、最近は結論となる「課題解決力」のプレゼンテーションが極めて重要になってきているのです。要件定義に始まる課題の洗い出し、改善に必要なプロセスシナリオ、納期とコスト、遂行能力と進行管理能力を兼ね備えたマネジメント力や課題解決によって達成した業績の成長率に至るまで。実際、最近の30代はさながらコンサルティングファーム並みのプレゼンテーションもお手のもの。
つまり、それだけ即戦力となる営業職の中途採用は難易度が高くなっているといえます。一方で、転職できれば①年収アップ ②ポジションが上がる ③自己裁量が増える ④事業の成長を体験できる、というお約束が保障されるというわけです。業種、業態こそ違いますが、いずれの経験者も「提案型営業」という汎用性の高い営業スキルの真価が問われていることは変わりません。
余談ですが。フィンテックというキーワードが加速している金融業界では人工知能やAIの発達により、近い将来、銀行の窓口業務はほぼIT化し、無人化するといわれています。
またネットによる集客が主流になれば、対面営業不用説もささやかれているほどです。
なにもこれは銀行に限った話ではなく、いわゆる対面営業のほとんどがIT化に向けてシフトチェンジしており、この流れは不可逆的といえそうです。
ロボットに負けない我々ならではの「提案」とは何か。
先日、ラジオで「10年後、サラリーマンは若手お笑い芸人化する」という談話を耳にしました。サラリーマンが生き残るためにロボットにはできない技量やスキルを考察した結果、「上司の顔色をうかがう」ことと「愛嬌」があげられたそうです。つまりそのふたつのみが人間ならではのスキルだったとのこと。若手お笑い芸人という比喩が一体何を指しているのか?といえば、テレビ番組で若手のお笑い芸人が雛壇のポジショニングをめぐって熾烈なバトルを繰り広げる光景そのものだといいます。先輩芸人の顔色をうかがい、後輩らしい愛嬌をふりまき、ポジションを獲得する。翻って、あれと同じことが近い将来、職場でも繰り広げられると予想されているそうなのです。ロボットに負けないように、我々人間が顔色伺いや愛嬌で勝負することになろうとは……。何だかすごく昭和的な根回し文化の匂いがしませんか。ITの進化の果てに、残された「人間ならでは」の強みが時代の逆行化と符合するのだとすれば、なんとも皮肉な話です。
新規開拓営業は昔から非常に人間臭い、泥臭い仕事と言われてきました。テレアポと呼ばれる電話営業などは最たるものです。最近はIT化の恩恵で営業スタイルもずいぶんスマートになりましたが、「人間ならではの提案」はロボットと競い合った時、どこまで競争優位性を担保できるものなのでしょうか。
私たちの人材紹介=「情報の仲介サービス」もいうなれば「提案営業」です。人間が介在することでいかに情報に付加価値をつけられるか。ロボットに負けない我々ならではの「提案」とは何か。この自問自答は、どうやら終わりそうにありません。
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