「地方創生」が叫ばれている現在、優秀な人材をUターンさせ、地元に貢献してもらいたいと考えるのはどの県でも同じでしょう。またどの県も事業承継の問題は深刻です。老舗の優良企業が海外の企業や他県の同業他社に吸収合併されることが増えてきました。刷新を喜ぶ一方で、廃業という苦渋の選択を強いられている企業も少なくありません。さらに新潟県は47都道府県中、起業する人の人数が最下位という残念な記録が続いています。「どうしてなのだろう」と私なりに長年疑問に思っていたところ、福岡県は起業家が抜きんでて多いという話を聞きつけ、先日機会を得て福岡に視察に行ってきました。福岡は優秀な起業家を輩出する県として有名であり、さらに現在、19歳~23歳の若年層の人口が増えている珍しい地方都市として注目されています。ベンチャー企業を応援する施策を行政が発信すると、その都度、反応がよく、Uターン起業を果たす若手が増えていると聞きました。実際に、起業家育成セミナーなどを見学しましたが、そこで感じたことは「起業家精神」とでも呼ぶべき熱量の高さです。「やってみよう」という気概に溢れていて、互いに刺激を与えあうコミュニティが成立しているのです。
新たな産業創造を育てる環境作りは次世代の未来を考える上で、我々の使命
「お国柄」という言葉がありますが、福岡と新潟の気質の違いのようなものを感ぜずにはいられませんでした。もちろん、見習いたいという意味においてです。どちらかといえば、
安定志向で引っ込み思案の新潟気質。この気質を形成しているのは何なのでしょうか。いくつかの仮説を立てて見ましょう。まず、交易の視点から。九州は歴史的に海外との交易で成り立ってきた土地柄です。新潟も港町ではありますが、主に蝦夷や佐渡など国内貿易で栄えてきた違いがあります。この差が大きいのでしょうか。
次に天候の視点から。雨や曇り。冬は雪が多い北越の風土も少なからず影響しているかもしれません。鈴木牧之が30年の月日をかけて書き上げた江戸後期のベストセラー『北陸雪譜』は雪国の実情を全国に知らしめた書として有名です。雪国の根性と情念ともいうべき新潟気質を考える上ではいまでも学ぶべき点の多い古典です。技術の革新により当時に比べれば越冬はだいぶ楽になったものの、内向きな気質はそうそう変わるものではないことを考えさせられます。高齢化が進み、地元の優良企業の後継者問題も深刻ですが、今後の未来を考えた場合、見逃せない問題です。新たな産業創造を育てる環境作りは次世代の未来を考える上で、我々の使命だと考えています。
早い段階で地場産業に目を向ける取り組みが行われるべき
にいがた産業創造機構などの行政による補助金を事業資金の援助の呼びかけをはじめ、セミナーや展示会商談会の催し開催など草の根的な活動はいくつもあるのですが、もっと早い段階で地場産業に目を向ける取り組みが行われるべきではないでしょうか。その意味で、上越市が小中学生を対象に全国に先駆けて行っているキャリア教育には個人的にとても期待しています。同市では「地域の子どもは地域で面倒をみる」というキャッチフレーズを掲げ、毎年夏休みに5日間の会社見学を行っているのです。
老舗企業からベンチャー企業まで。地元企業を回り、仕事とは何であるか、どんなことをしているのか、子ども達が肌で学べる機会を創出しているのです。ちょうど、中学生版のキッザニアといえばわかりやすいかもしれません。今年はこの第一期生が大学を卒業する年ということです。調べによれば県外に進学をしていた学生のうち、地元に戻ってきている人の割合がこれまでよりも多いというのです。これは見逃せない大事なポイントです。
新潟県内の大学進学状況を考えますと、進学率のいい高校ほど県外への大学に進学指導するため、優秀な学生の7割が大学進学時に県外に出て行ってしまうのです。高校時代に「地元に帰って来ても職がない」という刷り込みや職業選択の可能性に関するアナウンスを十分に受け取っていなければ、進学先の県で就職を考えるのが自然な流れです。現在Uターン転職の多くは親の介護など二次的な理由によるものです。しかし、小学生中学生のうちから地元にもこんなに素晴らしい産業がある、将来こんな仕事をしてみたいというロールモデルを体験できれば、就職を考え始める時、自発的なUターンと言う選択肢がもっと増えるのではないでしょうか。
キャリアの早期教育がもっと盛んに行われることを期待したい
英国の教育学者であり教授のベッキー・フランシスは「子ども時代の遊びが将来の職業選択に及ぼす影響は大きい」と説いています。夏休みに遊ぶように仕事を体験する。こんな機会を一人でも多くの子ども達に経験させてやりたい。そう願わずにはいられません。
先の上越市のような取り組みやキャリアの早期教育がもっと盛んに行われることを期待したいですし、同時に「起業家マインド」や挑戦する気持ちを育む環境づくりを我々、人材事業に関わるものとして当事者意識を持って支援していきたいと強く感じる今日この頃です。
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