日々進化しつづけるものづくりの精神
先回、Iターン転職希望者が内定後の年収提示で「年収がさがること」を理由に転職を断念してしまうケースが多いことを書きました。
では翻って都心と比べ年収格差が否めない新潟でひとつの会社に長く勤め続ける人が少なくないことをどう捉えたらいいのでしょうか。生活コストの安さだけではなく、給与格差にも勝る魅力がなければ、みんな都心部へ出て行ってしまうはずです。ぼんやりとそんなことを考えながら、長岡に在籍する企業の特徴を思い浮かべながら、ふとこんなことに思い至りました。ひょっとしたらこれは働き手の満足度や仕事のやりがいに関係があるのではないか、と。
長岡は製造業がさかんで数多くの優良企業が存在します。特徴的なのはいわゆる完成品メーカーではなく、部品や部品を作る、いわゆる産業用機械をつくる企業が非常に多いということです。産業用機械のある特定部分を担う機械メーカーであったり、自動車部品メーカーであったり。なかには10000分の一ミリを研磨する特殊技術を有している企業もあるほどです。産業構造が変われば、一変しかねない環境下においてもこれほど長い間需要があるのは日々進化しつづけるものづくりの精神が脈々と受け継がれてきた証だといえるでしょう。
名前も知られることのない目立たない部品こそが日本の基幹産業を支えている。
2004年、長岡の部品工場が中越沖地震で大きな被害を受けたために、トヨタや日産といった大手完成車メーカーの工場ラインがストップしてしまったことを覚えていますか。
「これは大変だ」と、日本を代表する自動車メーカーの社員の方々が長岡に駆けつけ、急ピッチで復旧作業にあたった甲斐あって、約10日後には製造ラインが再稼働できたと伝え聞いています。
名前も知られることのない目立たない部品こそが日本の基幹産業を支えている。
あの中越沖地震は人々にその事実を知らしめることになりました。
技術者の多くはこうしたプライドと信念を持ってものづくりに従事していることは想像に難しくありません。
思い起こせば、長岡城は戊辰戦争時代に没落してしまいましたが、その背景には幕府を支えるためという大義に忠誠を尽くした長岡の人々の姿が浮かび上がってきます。
こじつけかもしれませんが、目立たないけれども縁の下の力持ちとしての責務を全うする姿は代々脈々と続く県民性なのではないか。そう思わずにいられません。
「技術は人が創る」ことを物語っている
そんなものづくりの土地、長岡から最近、うれしいニュースが続いています。
長岡工業高等専門学校出身の渋谷修太氏率いる株式会社フラーがスマートフォン分析アプリの開発により世界を競合に大躍進を続けていることは皆さんもご存知でしょう。
渋谷氏は「新潟をITベンチャーの発祥の地にしたい」という目標を掲げ、2017年1月に新潟市内に拠点を新設し、起業家育成のイノベーション創出に活動を推進しています。私自身も長岡が育んだ新時代のロールモデルとして大いに期待を寄せています。
先日渋谷氏に直接会って話をした際、彼らが見ているビジョンの大きさに感心していると、「人材紹介サービスもワンクリックでサービスが完結しないとだめじゃないですか」と問われてしまいました。
飛躍的な技術革新により「仲介」という仕事すらもスマホのアプリにとってかわられる時代がくる日もそう遠くはないのでしょう。それはつまり、私の仕事がなくなる可能性を意味しますが、実は私はそれほど悲観してはいません。
なぜなら、情報価値の提供は人が担うべきことだからです。スマホの分析アプリ開発技術を底支えしているのも人にほかなりません。AIが代替わりしてくれる仕事もあるでしょうが、そのAIを使うのも所詮、人です。
渋谷氏自身の夢が「世界一ヒトを惹きつける会社を創ること」であるのは、まさに「技術は人が創る」ことを物語っていることのように思えます。
私にとっての夢は何かと聞かれれば、それは間違いなく、渋谷氏のようなイノベーティブな技術者を新潟の優良企業につなぐことで、世の中に貢献したい。その思いに尽きます。
いわば、縁の下の力持ち気質は私のなかにも息づいているようです。
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