先回のブログで中学生版キッザニアと呼ぶべき、上越市の「職場体験」の取り組みを紹介しましたが、今年は夏休みを利用して視察に行ってきました。
子ども達自身が「変わる」ことを促すための職業体験
去年の参加者は1750名でしたが、今年はそれを上回るのでは?と思わせる活況ぶりにまず驚かされました。地元企業のさまざまな業種業態の企業が受け入れ企業として参画していましたが、私はホテル業と建設業の様子を視察させてもらいました。内心、仕事に向き合う子ども達のほとんどはおそらく「指示待ち」なのだろうと高を括っていたのですが、まったくその逆でした。
私は数ある職業分野のうち、ホテルと建設業の仕事を体験するチームの視察をすることになりました。まず、感心したことはホテルの厨房の裏でナプキンを黙々と畳む子ども達の姿。まさに真剣そのものでした。高く積まれたナプキンを指差して「まだこれだけあるよ。飽きない?」と尋ねると、「全然飽きない。もっとやりたい」と目を輝かせています。
ホテル組はベッドメイキングをしたり、掃除をしたり。
建設業に割り振られた子ども達のほうはといえば、さすがに建設現場に向かうのは危険との判断からでしょうか。「朝礼」からはじまりました。号令のかけ方、連呼のとり方、大人たちの日常の慣習を見よう見まねで一生懸命動いています。建設組は現場に入る前の準備運動をしたり、椅子を造る作業をしたり。それぞれが職場の雰囲気を肌で感じながら毎日違うジョブローテーションを体験していくのです。
似たような取り組みをしている市町村はほかにもありますが、体験期間が1~2日というところがほとんどです。上越市の中学生職場体験のいちばんの特徴は体験期間が5日間あることではないでしょうか。5日間設けている理由は子ども達自身が「変わる」ことを促すためだと言います。初日はやはり緊張の一日です。仕事を覚えはじめるのが2日目。仕事に慣れるのが3日目。4日目になると、ようやく余裕が生まれ子ども達自身から創意工夫が生まれるようになり、5日目には連続した経験を思い出として反芻し、感動につながるというわけです。
「地域愛の醸成」に貢献する未来につながる取り組み
この施策の募集要項には「自分をみつめ、学ぶことや働くことの意義や理解を深め、自分の将来を考え、夢や目標を実現しようとする意欲や態度を高めます」とあります。参加に際して、まずは適性検査を受け「向いている職種」のアドバイスをうけた後、本人の希望を募るのだそうです。希望が多ければ割り振られるそうです。たいていの子どもは親から言われて参加して最初のうちは半信半疑だったものが、いつしか職業意識に目覚めていくという様子を目の当たりにして、こうしたプロセスを5日間で経験することはあながち机上の空論などではなく、しっかりと感動として記憶に刻まれるのだなと感心しました。
見学の際、子どもたちにインタビューする機会に恵まれました。ホテル組の子ども達は「サービス業に興味がある」と自己申請した子が多いようでした。
「できればフロントなど実際にお客様と接する仕事をしてみたかった」と発言する子も多く、わずかな期間でこれだけ意識が高まるものなのかとびっくりしました。実際、受け入れる企業がどこまで機会提供できるかは難しいところはあるでしょうが、社会人としての勤労観や職業意識を目覚めさせる機会の創出であることは間違いないようです。
地域の産業を知るきっかけになり、職場の雰囲気も肌で体験できます。この職場体験で出逢った企業に新卒で就職したといううれしい事例もあるのだそうです。まさしく「地域愛の醸成」にも大いに貢献できる取り組みだと言えるでしょう。
子ども達の未来につながるだけでなく、企業にとっては将来の人材確保の好機です。
ぜひとも継続して地域の連帯を深めながら、起業特性を生かした「受け入れ態勢」の確立と基盤強化を期待したいものです。
一人一人がプロフェッショナルとして仕事を全うするための職業意識が求められる時代
同一労働同一賃金が話題になっていますが、少子高齢化の日本には不特定多数のゼネラリストを終身雇用する体力がありません。おそらく、今後は専門職のほうが需要は高くなるはずです。漠然と就職するという従来の態度を改め、一人一人がプロフェッショナルとして仕事を全うするための職業意識が求められる時代になることは間違いありません。となれば、早いうちから職業選択について考える機会を与えることは子ども達にとっても、ひいてはこれからの社会にとっても極めて重要なことだといえましょう。
かつて「サラリーマンという仕事はありません。」というキャッチコピーがありましたが、「どんな仕事をしていますか?」と聞かれて会社名や役職を応えるような大人にならないよう、大人もしっかりしなくては。そんなことを考えさせられた職業体験学習の視察でした。
コメント