桜の開花宣言を待ちながら新年度が始まるこの季節は、毎年恒例とはいえ、心躍るものがあります。また、この時期は人事異動の発令のタイミングが重なるため、心穏やかにいられない人も少なくないでしょう。
組織全体が既存社員の能力を活かす努力をしなければ、企業が成長できない
求人数は堅調。売り手市場はしばらく続きそうですが、採用環境に目を向けてみると「最近、ちょっと変ったな」と思うことがあります。今日はそのことについて書いてみます。
人事異動のタイミングで「とりあえず転職を考えはじめる」という人が毎年、少なからずいました。それが、ここ数年、減少傾向にあるのです。
転職希望者の意識の変化と捉えることもできますが、むしろ企業のシフトチェンジによるものではないかと感じています。退職者が出たから、新しい人を採用する。つまり、補填するために新たに中途採用するよりは新卒で採用した優秀な人材の流出を防ぐ方向へと経営の舵きりをした。なぜかといえば、組織全体が既存社員の能力を活かす努力をしなければ、企業が成長できないと気づいたからではないかと思うのです。
今いる人材を活かしたほうがコストも手間も削減できるという背景があるにせよ、この兆候は転職エージェントとしては負と考える向きもあるかもしれませんが、世の中全体という視点で俯瞰してみれば、このシフトチェンジはむしろ喜ばしいことだと私は考えています。
転職の目的が明確な人にのみ門戸が開かれている
マッキンゼー的人材獲得・育成競争として古典的名著と言われている『War For Talent』 を引用するまでもなく、人材の獲得競争に勝つためには外に目を向けるばかりでなく、自社の優秀な人材の流出を防ぐために経営者が「彼らがい続けたいと感じる機会の創出」をすべきだ、という観点があります。多くの経営者がこの重要性に気づきはじめたように思えるのです。
とはいえ、即戦力となる中途採用のニーズは相変わらず堅調です。そこで何が生じるかといえば、中途採用される側の基準が以前に増して厳しくなっているということにほかなりません。「いい仕事があれば転職したい」といった漠然とした転職動機ではまず、難しい。
なぜ転職するのか。転職することで、どういう仕事ができるのか。やりたいこと、その目的が明確な人にのみ門戸が開かれているという状況なのです。加えて、自分の技術やスキルを把握している(できることとできないことがクリア)ことが重要になっています。
転職者の意識の変化を頼もしく感じる
ちなみに下記のような経験をお持ちの方は即戦力として重宝される人材といえます。
・新規プロジェクトをゼロから立ち上げた実務経験のある人
・プロジェクトの起案、推進、実践責任者
・マネジメント経験者
・IPOの実務経験者
・海外拠点(支社)の立ちあげ経験者
こうした自分なりの成功体験を経験した人をみていますと、転職動機にも共通点があることに気づきます。主な転職動機としてあがるキーワードは
「もっと責任のある、大きな仕事がしたい」「経営ボードメンバーとして挑戦したい」「プロジェクトリーダーとしてもっと裁量権限のある仕事がしたい」などであり、概して川上から川下まで自己裁量で経験することのできる仕事を望む傾向が強いことが特徴です。
大企業の一セクションでルーティンをこなすよりも中堅中小で業務全体を俯瞰し、一貫した経験を積めるチャンスのほうにキャリアとしての価値を見出す傾向がここにきて強まっています。この背景には大手企業が、もはやかつてのような「安定・安心」の象徴でなくなっていることの影響も大きいでしょう。
この傾向は専門職の領域でも顕著です。建築、設計、施工管理、土木管理、電気工事管理などのプロフェッショナルが大手ゼネコンでルーティン業務に甘んじるよりもプロジェクトの全容を統括できるフィールドを求めて転職を希望するケースが増えているのです。これは所属する会社の大小よりも自分自身のキャリアのスケールメリットを優先する意識の変化にほかなりません。「寄らば大樹の陰」という指向は過去のものとなり、規模のいかんにかかわらず、もっとイノベーティブな仕事をしたい、という意識の変化の表れだといえます。
終身雇用、年功序列が定石だった一時代前と比べると、隔世の感がありますが、転職者の意識の変化を頼もしく感じる今日この頃です。
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